「初めて」が2つの日

今回は、ちょっと格調高く、イギリスの詩人ワーズワースの話から始めます。と言っても、学生時代に学んだカビ臭い知識を、老化した頭の片隅から引っ張り出すので、正確ではないかもしれません。

ともあれ、ワーズワースは、「人はこども時代はイノセント(無垢)で自然と一体であるが、成長するとエクスペリエンス(経験)を経て、イノセンスは失われてしまう。しかし、その代り、哲学的思考を得るのだ」というようなことを言っていた人です。無垢というのは、汚れのないまっさらな状態です。幼い頃は、この世での経験が少なく、何もかもが初めてという新鮮な毎日です。

つまり、おとなになるということは、「初めて」のことが少なくなっていくことなのだと思います。だから毎日を退屈に感じたり、「今日はどんな日だった?」と聞かれても、「別に」とか、「いつもと同じ」などという答えが返って来るようになってしまうのです。

だからと言って、ワーズワースが言うように、哲学的思考を得ているかどうかは個人差があるでしょう。

 

ところで、おとなになっても、「初めて」のことに出会うと、こどもの頃のように無性に誰かに話したくなったりしませんか?

前置きが長くなりましたが、私は、先日「初めて」を一日に2回も経験し、ちょっとワクワクしたので、早速お話したいと思います。

 

ある日の夕方、犬の散歩をしていた時のことです。

学校帰りの小学校高学年くらいの外国人の少年が、3人で袋入りのスナック菓子を食べながら通りがかりました。その中の背の高い少年が、スナック菓子の袋を私に差し出して、「すみません。ぼくたち漢字が読めないので、この中に卵と豚肉が入っていないか見てくれませんか?」と言いました。(卵と豚肉を食べてはいけないということかしら。でも既に食べていたみたいだけど...)と思いながら、表示を見ると、中ほどに「ベーコン風味エキス」と書かれていました。「ベーコン風味って、ベーコンなのか、ベーコンじゃないのか...」とブツブツ言いながら悩んでいると、「それは何ですか?」と聞くので、「ベーコンは豚肉から作るのだけれど、ベーコン風味だから豚肉じゃないのかな」と答えながら尚も見て行くと、一番最後のカッコ書きの中に(豚肉を含む)と書いてありました。そこで、「卵は入っていないけど、豚肉は入っているみたい」と言うと、少年は、「そうですか。どうもありがとう」と言って、ちょっとがっかりしたような、でもやっぱりなと言うような顔をしました。少年たちは、浅黒い肌で彫の深い顔立ちをしているので、「ネパールの人?」と聞くと、「そうです」と答えました。そこで、「ネパール語で犬は何て言うの?」と尋ねると、「ククル」と教えてくれましたが、私の発音が悪いのか、3回くらい言い直されてしまいました。

実は、阿佐ヶ谷や荻窪にはネパール人が多く住んでいて、ネパール人学校もあり、スクールバスが走っています。街の中やバスなどでも多くのネパール人を見掛けますが、話をしたのはその日が初めてでした。何より日本語がとても上手で、驚きました。

でも、あの子たち、豚肉を食べても良かったのかしら。

 

その後、暗くなり始めた頃、川のほとりの道を歩いていると、少し先の公園の芝生の真ん中で、トレーナーとズボン姿の中年の女性が、空を見上げて立っているのが見えました。「あんなところで、一体何をしているんだろう」と思いながら、そばを通り掛かると、その女性が上を見上げたまま、突然「ほら見て、人工衛星よ」と言いました。それが、私に向けられた言葉なのかどうかを考える暇もなく、私も思わず空を見上げました。すると、小さな銀色のビーズのようなものが、ピカッ、ピカッと光りながら移動しているのが見えました。私が思わず、「へえ、あれが人工衛星なんだ」とつぶやくと、彼女は「すごいわねえ。1000キロも離れているのよ」と、また誰にともなく言いました。その間、顔はずっと空に向けたままでした。

そういえば、テレビで人工衛星が日本上空を通過する時間をインターネットで調べることが出来ると言っていたのを思い出し、家に帰って早速調べると、丁度その時間に日本上空を通過していたことが判りました。

見た目はどこにでもいそうな、普通のおばさんだったけど、彼女は一体何者なんだろうと思いながら、私に「初めて」の経験をくれた見知らぬ女性との出会いに感謝しました。

 

人との出会いは不思議ですね。

毎日の散歩の途中にも新しい出会いがあり、この歳になってもまだ、初めての経験ができるのです。他の人は、自分にとって「初めて」の宝庫です。

 

私は、この日以来、ネパール人と話をしたことがあり、人工衛星を見たことのあるおばさんになりました。

 

 

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