二人っきりの訪問診療

4月13日(月曜日)、出勤してきたスタッフを前に、院長が言いました。「明日はどうやら東京に緊急事態宣言が発令されるようです。そこで、少なくとも緊急事態宣言中は、皆さんに自宅待機をしていただき、夫婦二人でタクシーを使って訪問診療を続けようと思います。今日はせっかく来ていただきましたが、このまま帰宅して、こちらから連絡するまで自宅で待機していてください。」

スタッフに自宅待機してもらうという話は聞いていましたが、まさかその日から始めるとは思っていなかった私は、内心「えーっ!」と思いながらも、「お二人で大丈夫ですか?」と心配してくれるスタッフに、何とか笑顔を見せて見送りました。

そこから二人っきりの訪問診療が始まりました。診療に必要な筆記用具やカルテ、検査キットなど最低限のものを背中のリュックに詰め、片手には先生の往診バッグを持って、タクシーを捉まえる日々の始まりです。お昼には、お弁当を買って診療所に戻り、昼食後に再びタクシーで患者さんの家に向かいました。中野方面の診療の日は、お昼に診療所に戻ることができないため、小さなお団子屋さんでお稲荷さんを買って、近くの神社のベンチでいただきました。神社を見下ろせる位置に建っているマンションで自粛生活をしていた方が、そんな私たちの姿を見たら、神社でピクニックをしている暢気な年配の夫婦がいると思ったかもしれません。

患者さん宅は、たいてい住宅街にあるため、タクシーを拾うのは容易ではありません。しかも、緊急事態宣言中で走っているタクシーの台数が半分以下になっていたために、東京無線に電話して迎えに来てもらうこともしばしばでした。そんなに苦労してまで1回1回タクシーを乗り捨てたのは、一人の人との濃厚接触を避けるためです。また、手は絶えず消毒したり洗ったりしているために、すっかり油分が抜けてカサカサになってしまいました。

5月の連休明けを目標に頑張りましたが、連休が明けても緊急事態宣言が解除されなかったので、あとどれくらい頑張れるかと自分の体力に不安を感じたこともありました。しかし、生来が楽天的なために、「今日は何のお弁当にしようかな。」「今日はどんな運転手さんに会えるかな」などと結構毎日楽しみを見つけながら、5月25日の解除の日まで何とか元気に続けることができました。

 

東京無線さんには大変お世話になりました。また、医療機関の人間だと分かっていても嫌な顔をせず乗せてくださったドライバーの皆さま、本当にありがとうございました。

この間、訪問時間がずれたり、電話での対応になってしまったりと、何人かの患者さんにはご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳ありませんでした。

 

困ったことに、6月に入っても、タクシーを見かけると空車かどうか確認せずにはいられない、変な癖がついてしまいました。しかも、「空車」という赤い文字を見ると、一瞬胸がときめいてしまいます。うちの先生は、「緊急事態宣言の後遺症だね」などと言って、暢気に笑っていますが、後遺症というよりはトラウマではないかしらと思うこの頃です。

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